はじめに
はじめまして。三宿通り整形外科クリニックリハビリテーション科、理学療法士の岡部と申します。
私はこれまで小学生から社会人、プロまで多くの野球選手のリハビリテーションを担当し、中学・高校にて野球部のトレーナー活動を行なってきました。その中で野球に関連した様々な外傷、障害を経験しましたが、投球時に肩の痛みを発症する投球障害肩(いわゆる野球肩)を最も多く経験しています。
投球障害肩とは?
投球障害肩とは投球によって生じる肩の痛みや可動域制限などの総称であり、腱板損傷・断裂、関節唇損傷、リトルリーガーズショルダー等の診断名がそれに含まれます。原因としては投げ過ぎによる肩関節周囲筋の機能低下やフォームの崩れなど様々な要素が挙げられます。
選手により症状は異なりますが、棘下筋や小円筋と呼ばれる肩関節の後方に位置するインナーマッスルが硬くなり、内旋動作(肘を直角に曲げた位置で真横に上げて手を下げる動作)に可動域制限が生じていることやインナーマッスルを始めとした肩関節周囲筋が筋力低下していることが多く見られます。投球動作の中では*コッキング期からアクセラレーション期にかけての痛みが最も多く見られますが、ボールをリリースした後のフォロースルー期にも疼痛が見られることもあります。
*投球動作を6つに分類した時の相。「コッキングからアクセラレーション」とは、下記の赤枠が示すいわゆる「トップポジションからボールリリースまで」の時期を指す。
当院ではレントゲン、超音波エコー、MRIを完備しており、それらを用いて医師が骨や関節、筋肉などの状態を詳細に診察を行います。腱板損傷や関節唇損傷などが疑われる症状についてはMRI検査が有効となります。その診察結果を基に、医師と理学療法士が綿密に連携を取りながらリハビリテーションを実施します。
投球障害肩の治療
投球障害肩の治療において、投球時や日常生活で肩に痛みを感じる時期は投球を控えることが必要です。これには野球の練習や試合の時のみならず、学生選手であれば体育の授業や休み時間でも野球ボール以外の投球も控えること、肩に負担をかけないことも大切です。リハビリテーションは、肩関節、肩甲骨周囲筋のストレッチや筋力トレーニング、また股関節を始めとした下肢の柔軟性向上、体幹筋強化など内容は選手によって多岐に渡ります。自宅でもセルフケアを行うことも大切です。
投球フォームの見直し
リハビリテーションの一環として、必要があれば投球フォームの修正も重要な治療の一つです。今までやってきたことを変えるのは中々難しいことだったり、コーチの反対を受けたりすることもありますが、フォーム修正を行うことによって「球速が上がった」「コントロールが良くなった」「遠投距離が伸びた」など、投球パフォーマンスが発症前より向上する選手もいます。
また、肘の靭帯再建術(トミージョン手術)を受けたプロ野球投手が、手術前より球速が速くなることがありますが、これは手術後のリハビリテーションやトレーニングにより全身的な身体機能が向上した可能性も考えられます。
ポジションや身体機能を評価しながら、時間をかけてフォーム修正をした後は近距離・少ない球数から徐々に投球を再開し、投球時に肩に負担のかかりにくいフォームを習得することが必要となります。
ベースボールコンディションチェックシート
当院リハビリテーション科では、野球選手専用の問診票(ベースボールコンディションチェックシート)を用いて現在の状況を確認し、理学療法士が肩を中心とした身体機能のチェックを行います。治療は鎮痛や温熱効果のある超音波治療器を用いたり、ストレッチ、筋力トレーニングなど選手に合わせた内容を実施します。
また、当院リハビリテーション室は投球フォームを確認するために十分な広さを確保しており、実際にボールを投げてフォームを確認・修正することも可能です(安全の為ゴム製ボールを使用します)
最後に
近年、学生野球において、投手の投球数に制限を設けるか否かの議論を耳にしますが、個人的には子供の筋骨格系の健全な発達を促すためには必要なことと捉えています。また、1人の絶対的エース投手のみでなく複数の投手を育成していくことは、そのチームはもちろん、野球会全体のレベルアップに繋がると考えています。
日本学生野球憲章に「元来野球はスポーツとしてそれ自身意昧と価値とを持つであろう。しかし学生野球としてはそれに止まらず試合を通じてフェアの精神を体得する事、幸運にも驕らず悲運にも屈せぬ明朗強靭な情意を涵養する事、いかなる艱難をも凌ぎうる強靭な身体を鍛練する事、これこそ実にわれらの野球を導く理念でなければならない」とあります。これまで様々な野球指導者の方と意見交換をさせていただきましたが、学生野球においては青少年の健全な心身の育成が何より重要であることを念頭において選手と関わってきました。もちろん、勝負に勝つことによって得られる経験や感情は何にも変え難いものがあることは私自身も経験していますが、子供たちから投球障害肩をはじめとした怪我から守るためには、今一度指導者である我々大人たちが学生野球の本質に向き合って、選手と接することが必要であると思います。
私自身も高校生の時に肩の痛みにより大好きだった野球を志半ばで諦めざるを得なくなった経験があります。野球が好きだけれど痛みで満足にプレーができない選手がグラウンドで再び全力プレーできるように、リハビリテーションを通じて努めていきたいと思っています。
今後も投球障害肩をはじめとした野球に関する症状についてblogを更新していく予定です。よろしくお願いいたします。
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