PRP療法はご自身の血液から自己修復をサポートする成分を抽出して、患部に投与する治療法です。

PRP(多血小板血漿)療法

PRP療法という治療法をご存知ですか?

PRP (Platelet Rich Plasma 多血小板血漿) 療法とは、ご自身の血液から抽出した成分を患部に投与することで、もともと自分が持っている自己治癒能力をサポートする治療法です。様々な分野の治療に用いられており、整形外科でもスポーツによる怪我や関節炎などの治療にPRP療法が用いられています。

こちらではリーグワン Div.1 横浜キヤノンイーグルス チームドクターである院長がPRP療法についてゼロから解説していきます。

待望された治療法

日々の診療の中で、全ての患者さんが必ず良くなる夢のような治療法というのはいまだにありません。
痛み止めもさまざまなものが開発され、リハビリなどの運動療法も日進月歩で以前よりも選択肢が増えてきた中でも、「痛みが強くて外出が辛い」など日常生活に支障が出るほどの症状に悩んでいる患者さんが非常に多いのが悩みの種です。

今までは、こういった場合に手術を勧める以外に方法はなかったのですが、その前にお勧めしたい治療法がPRP療法です。
詳しくはこの後で解説していきますが、自身の治癒能力をサポートする治療法で副作用はほとんどなく、痛みを改善させることが期待できる画期的な治療法です。

自費診療で高額なため、この治療を導入するか迷っていましたが、ここ数年での治療データを見る限りは患者さんに十分おすすめできる治療法であると確信できたため、当院でも導入していくこととしました。

まずは、どういった治療法なのかを基礎から解説していきます。

血液に含まれる成分

血液の中には酸素を運ぶ赤血球、バイキンと戦う白血球、そしてPRP療法の主役になる血小板などが含まれています。

血小板は血管が壊れたところに集まり、のりのようにくっついて傷ついた血管をふさぎ修復する働きをします。

捻挫や肉離れ、骨折などで出血すると患部に血小板が集まり、出血を止めて組織修復に役立つ成分を放出します。その中には成長因子と呼ばれるものや様々な成分が含まれます。

 

ご自身の血液を特殊加工します

PRP療法は、このように血液に含まれる特定の成分を特殊な加工で抽出し、患部に投与する治療法です。

PRP療法:院内で加工します

15〜30ccの血液を採取し、特殊な容器に入れます。その後、遠心分離器という装置を使って特殊加工することで、赤血球/白血球+血小板/血漿と成分を分離させます。その白血球+血小板の層だけを取り出して、再度遠心分離にかけて抽出された成分を使用します。

CPRP-FD療法(院外で加工)

50ccの血液を採取して外部のラボで加工します。基本原理はPRPと大きく変わりませんが、血小板内の有効成分を抽出して無細胞化+フリーズドライすることで長期保存することが可能です。デメリットとしては、採血してから実際の治療まで3週間程度の期間が必要なのと、治療費が比較的高額になることが挙げられます。

どんな疾患に有効?

野球選手の大谷翔平選手や田中将大選手が、肘のケガでPRP療法を受けたことが有名です。手術では長期間のリハビリが必要なので、中々回復しないケガで、手術を回避するための一つの手段としても有効です。また、肉離れのような自然に治るケガでも、復帰までの時間を少しでも短くさせるために行うことがあります。ケガをしてしまったけど、大事な試合に間に合わせたい時にはご相談ください。

他には、変形性関節症(軟骨がすり減っている状態)の痛みを改善させる目的でもPRP療法が用いられます。残念ながら、関節の軟骨を再生させる効果については医学的根拠が乏しいと言われていますが、ボロボロにすり減ってしまった関節でも一定期間、痛みをとる効果については有効と言われています。人工関節手術を勧められた方でも、一度チャレンジしてみることをお勧めします。

適応疾患

腱板損傷、肩関節周囲炎
野球肘、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)
変形性関節症、半月板損傷、靭帯損傷、ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
足底腱膜炎、アキレス腱障害
その他 肉離れ(筋損傷)、難治性骨折

メリット、デメリットは?

様々な疾患に有効な治療法ですが、全てを元通りに治す魔法の治療ではありません。特に変形性関節症では「軟骨を再生する作用」はそれほど期待できず、「痛みを抑える作用」がメインと言われています。

 

治療費用

保険適応外のため、全額自費治療となります。保険を使用した治療とは併用できないため、リハビリや検査などと同日に行うことはできませんのでご注意ください。

PRP療法
(院加工)
シングル 55000円(税込)
→15cc分:筋肉系で推奨
ダブル  88000円(税込)
→30cc分:変形性関節症で推奨
シングル×2 88000円(税込)
15cc分ずつ、左右同時に行います

※ 院内加工で、当日に治療を行えます。
※ 2023年秋ころに開始予定です。

CPRP-FD療法
(院に加工委託)
1回  50cc分の加工 165000円(税込)
内訳:採血料11000円+治療費154000円

※ 院外に加工委託するため、採血してから治療まで3週間ほどかかります
※ HIVや肝炎などのウイルス感染症がある場合は、血液の加工ができません。その場合は治療は行えませんが、採血料として11000円かかりますのでご注意ください。なお、採血した日に71500円(税込)を事前にいただき、治療した日に残額の93500円(税込)をお支払いいただきます。万が一、感染症があり治療が行えない場合は事前にお支払いいただいた71500円から採血料として11000円を差し引いた60500円をお返しいたします。
※1回の加工で50ccの血液から2アンプル作成されます。1箇所に2アンプル集中して投与することも、左右に1アンプルずつ投与することも可能です。

 

治療の流れ

治療前に

まず、PRP療法での改善が見込めるのか、診断をつけることが前提です。当院への受診歴がなかったり、希望部位での検査歴がない場合は、事前に検査が必要です。
原則としてレントゲン、MRI等の検査を行い、正確な診断のもとで治療を進めていきます。
検査自体は保険診療内で行えますが、自費治療であるPRP療法と同日には行えません。保険内で検査する場合は採血なども別の日に行う必要があります。
※なるべく早く治療を進めたい場合は、検査を含めて全て自費診療であれば可能です。検査費用については、個別にご相談ください。

PRP療法

こちらは院内で加工するので、当日で治療は完了します。原則、予約制になりますので必ず事前にお問い合わせいただいた上でご来院ください。

1.採血

 

 

院内で採血をします。疾患や部位によって違いますが、15〜30ccの血液を採取します。

2.加工

採取した血液を特殊な容器に入れてから、遠心分離器にかけます。この加工で血小板が集まった層のみを抽出します。

3.投与

 

 

抽出されたPRPを患部に注入します。肉離れや腱炎などに対しては約2〜3ccのPRPを注入し、変形性関節症に対しては約4〜6ccのPRPを注入します。

 

CPRP-FD療法

こちらは院外で加工するので、採血から治療までに3週間程度を要します。こちらも原則、予約制になりますので必ず事前にお問い合わせいただいた上でご来院ください。

1.採血

 

 

院内で採血をします。50ccの血液を採取します。
※採血した日はそのままお帰りいただきますが、事前に11000円(税込)をいただきますのでご了承ください。

2.ラボへ発送して加工

採取した血液を特殊容器に入れて、外部ラボへ送ります。ラボで遠心分離加工などを行い、血小板成分を抽出してフリーズドライ加工したものが送られてきます。そのため、治療までに3週間程度の期間が必要です。
※ラボで感染症検査を行い、陽性であった場合には加工できません。その場合は採血料の返金はできませんのでご了承ください。

3.投与

抽出されたPRPを患部に注入します。当院では、CPRP-FD療法を変形性関節症に対して推奨しております。50ccの血液から2アンプルできますので、片膝に2アンプル投与、もしくは両膝に1アンプルずつ投与する形になります。(膝の場合)

 

医学的根拠は?

PRP療法は治療法としてまだ確立しておらず、保険適応にはなっていません。(2023年6月現在)
しかし、様々な研究から医学的根拠が確立されてきています。

変形性膝関節症

変形性膝関節症(軟骨がすり減って変形してきている状態)に対しては、軟骨再生の効果は高くないものの炎症を抑える効果が優れている。
痛みなどのスコアを定量的に分析したところ、治療効果が得られるのは全体で62%であった。(PRP療法を3回施行した場合での結果)

変形の程度(KL分類) 奏効率
grade2 75%
grade3 67%
grade4 51%

※KL分類ではgradeが進むにつれて軟骨がすり減った状態

Predictors of Effectiveness of Platelet-Rich Plasma Therapy for Knee Osteoarthritis: A Retrospective Cohort Study
Saita et al. J Clin Med 2021
(PRP療法の第一人者である順天堂大学 齋田先生の論文)

このように、軟骨がボロボロにすり減っている方でも、一定以上の効果が得られることがわかっています。残念ながら、全ての方に有効ではありませんが、人工関節手術を勧められた方でも一度チャレンジしてみる価値のある治療法だと考えられます。

肉離れなどのけが

肉離れ(筋損傷)や半月板損傷、肩腱板損傷など様々なケガにPRP療法が行われています。これらのケガに対してPRP療法が、どの程度効果があるかは確立されていません。
しかし、海外の文献を見てみると腱板損傷やアキレス腱炎、肉離れ、半月板損傷に対してPRP療法がポジティブな効果を示したという報告が多くあります。
自身の血液を加工して投与する治療なので、危険な副作用はなく、経済的事情が許せば積極的に勧めたい治療法です。

CPRP-FD療法

こちらは、採取した血液を院外で加工・フリーズドライしたものを投与する治療法です。PRP療法と基本原理は変わらないと考えられますが、フリーズドライしたものでの治療データはほとんどないのが現状です。変形性膝関節症に対しては、痛みを改善させるという論文報告があるものの、症例数が少なく確立されているとは言えないのが現状です。
当院では、PRP療法と同等な治療法と考え、先行して導入しております。

痛みのない生活を

PRP療法について解説しました。中々よくならない痛みでお悩みの方や、1日も早くスポーツ復帰したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
また、ご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。