院長コラム

大相撲の体制に唖然、、、

大相撲春場所13日目で
起きたアクシデント

ネットニュースで見かけて、あまりにもお粗末な対応をしているため、少し憤慨しながら書いています。
※当初アップしていた、実際の事故のYoutube動画は削除しました。

 

倒れた力士に対する対応

大相撲春場所13日目の取組、今福ー響龍の対戦ですくい投げで頭から落ちた響龍が立ち上がらず、うつ伏せで動かない。

その横で勝ち名乗りを上げる行事。

この場に緊張感はなく、メディカルスタッフが急いで出てきません。

どう考えても、頚椎損傷を念頭に置いて処置するべき緊急事態です。

あまりに酷いメディカルの体制

私はラグビーでの試合帯同や会場ドクターをしているため、こういった緊急時の処置について訓練を受けています。
プロフィールにも書いていますがICIS(Immediate Care In Sports) Level3という資格を有しています。

これはスポーツ現場での緊急事態に対応するための実技講習で、トップレベルでのラグビーの試合には必ずこの講習を受けた医師がスタンバイしています。

今回の大相撲でのアクシデント、映像や写真を見る限り全く訓練を受けていないスタッフによる、あまりにお粗末な対応です。
ネットニュースのコメントではさまざまな意見がありましたが、何が間違ってるのか解説していこうと思います。

①倒れた力士に対するファーストコンタクト

立ち上がらない、明らかに異常がある力士に対して医療従事者や訓練を受けたスタッフがすぐに出てきていない。

本来であれば医療従事者が真っ先に駆け寄り、意識の有無や神経障害、気道閉塞がないかを確認し、応援要請と搬送準備を始めなければなりません。

特に受傷直後はうつ伏せになっていたため、下手すると窒息する可能性もあるため呼吸が確保できてるかの確認は一刻を争う事態です。

後述しますが、うつ伏せで倒れてる状態で1分間程度放置、頚椎損傷であれば非常に危険な方法で仰向けにされた後、さらにしばらく放置です(唖然)。医師らしき人が到着するまで4分以上経過し、モタモタしながら搬送されていきます。
腕が脱力してるし、どう考えても頚椎損傷を第一に考えて処置するべき状況です。

トップリーグの現場だったら、受傷後数秒でチームドクターがコンタクトして頭部をホールドしているはずです。

②医師や搬送スタッフが全く訓練を受けていない

※スポニチアネックスより引用

0点、、、

全くもって呆れてしまう写真です。
頚椎損傷の場合、こんなことしたらアウトです。

訓練を受けていない人がむやみに動かすのは危険です。
ただし、動かしてはいけないわけではありません。うつ伏せのままでは状態評価が正しくできないし搬送も難しいです。


(※関東ラグビー協会医務講習資料より)

正しくは頭部が動かないようしっかりホールドしたまま、段階的に仰向けにする。

力士のような100kg超えてる人を全く訓練受けていない人だけで仰向けにしてますね。それと、この白衣着ている医師?なんで傍観してるんでしょうか?(訓練を受けている人がいなければ、あなたが率先して頭部のホールドをしなければならないと思います)

ちなみに、スポーツの現場でうつ伏せに倒れて動けない選手がいた場合、気道確保されているようなら(口や鼻が塞がれていないなら)救急隊到着までむやみに動かさないでください。

でも、間違っても気道確保するために口の中に指を突っ込まないでください。下の動画ではサッカー現場での選手の処置をヒーローだと称賛していますが、気道確保は口の中に指をつっこむことで確保できません。第一苦しいし、下手したら誤嚥などするので絶対やめてください。


③担架ではダメです!

※スポニチアネックスより引用

コンタクトスポーツなんだから、せめてスパインボードくらい用意しておきましょう!!

首の固定ができない原始的な担架を使用しているって、どこまで前時代的な体制なんでしょうか?
頚椎損傷が起きる事態を想定していないのでしょうか??

頚椎損傷が疑われる場合に、頸部の動きを制動できない担架を使うなんて、空いた口が塞がりません。

(※関東ラグビー協会医務講習資料より)

頸部をしっかりホールドしたまま、ストレッチャー(できればスプリットボード)にのせて固定する。当然、ボードについているベルトで全身を固定しましょう。

ストレッチャーに乗せる前に頚椎カラーでの固定を忘れないようにしましょう。
今回の現場では用意されていない様ですし、当たり前のことが一つもできていないです。

下の動画ではスクープストレッチャーというスプリットするタイプのものの使用方法を紹介しています。



動画では上肢が完全に脱力しており、頚椎損傷を真っ先に疑う状況です。
批判覚悟で繰り返しますが、出てきた医師も状態評価が不十分、固定指示も適切にできておらず、今回の事態を想定していないことが明らかです。

プロスポーツなんだからちゃんとしましょうよ

アマチュアの地方大会ではなく、“大相撲 春場所“ がこの体制なのかと思うと残念な気持ちになります。

力士たちは体が命なのに、その大事な体を守る体制ができていないのは明白です。

もし、頚椎損傷ならしっかりとした処置ができているかどうかで障害の予後も変わってきます。
それどころか頚椎損傷では場合によっては、自発呼吸ができなくなり命に関わる重大な事故となりうることをしっかり認識してほしいです。

今回の事故をきっかけに、しっかりとした医療体制の構築をするべきです。

そういえば、スピーチ中に土俵上で倒れた方に救命処置を始めた女性看護師に「土俵から出てください」とアナウンスしたこともありましたね。
相撲協会では人命より、文化の方が大事なんでしょうか?

 

ラグビーの現場での医療体制

先にも書きましたが、トップレベルのラグビーの現場では必ず特殊な実技訓練を受けたドクターが複数名帯同しています。

ラグビーはコンタクトスポーツであり、頚椎損傷などの重傷事故がごく稀ですが起きてしまうスポーツです。

会場では搬送するためのスタッフが割り当てられおり、試合前には必ず搬送手順の確認を行います。

試合中はチームドクターやトレーナーがピッチサイドに常駐し、選手が倒れれば試合が動いている最中もピッチ内に入り、処置を開始します。

相撲協会もこういった最悪の事態を想定し、訓練を積んだドクターやスタッフの養成をするべきです。プロスポーツなんですから。

最後に

ラグビーと同じコンタクトスポーツとして相撲の世界も発展してほしいと思います。

クリニックのことと直接関係ない内容でしたが、長文にお付き合いいただきありがとうございます。

 

※4月30日追記

4月28日、響龍が急性呼吸不全のため東京都内の病院で死去したと報道されました。
おそらく、寝たきりによる肺塞栓が要因のようなので、事故直後の不備な対応による因果関係は不明です。

 

28歳の若い命を奪ったのは相撲なのか、相撲協会なのか。
今回のことを風化させてはいけないと思います。

しかし、再発防止のために、今後講習会をするということは唯一の光明です。
大相撲をもっと素晴らしいスポーツにするために、一層尽力してほしいです。

最後に響龍氏のご冥福をお祈りいたします。このような事故が少しでも減ることを心より願っております。

院長 有田 正典

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